最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)831号 判決 1971年2月09日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人戸毛亮蔵の上告理由第一点について。
被上告人は訴外奈良化学農業資材株式会社に対し昭和三五年四月一八日頃から同年六月一一日頃まで養鶏用飼料を売り渡し、同月二一日現在で右売掛代金債権が金二、六二三、九三二円であつた旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではなく、右認定の過程において採証法則違背は認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第二点について。
昭和三五年五月中旬頃前記訴外会社においては内紛が生じたため、その債権者らは訴外会社との取引を中止するに至つたが、被上告人は上告人から飼料を与えないと鶏が死ぬからひき続き飼料を売却してほしいと懇請され、そのため、被上告人は、特別に配慮して、昭和三五年六月一一日頃まで数回にわたり金一、一九三、一三五円相当の飼料を訴外会社に売り渡したものであり、前記二、六二三、九三二円の売掛代金債権の中にはこの分が含まれている旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではなく、この認定の過程に採証法則違背も認められない。その他の点についても、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第三点について。
前記訴外会社がその東市農業協同組合ほか一五五名に対する売掛代金債権およびその所有する自動車を被上告人に譲渡し、これにより代物弁済があつたものとして訴外会社の被上告人に対する本件債務が消滅したものであることを認めることができない旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではない。所論は原審のした事実認定を非難し、独自の見解を述べるものであるが、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)